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とあるポケストップを巡る物語 〜 青面金剛像

ポケモンGoと民俗

ポケモンGoをプレイしていて、うろうろとしていると、いつもは行かない場所に行ってみたり、いつも通り過ぎているけど気にかけなかった場所から新たな気付きが得られることが得られることがあります。

寺、神社、地蔵、石像などなどはよくポケストップに設定されていて、解説文を読むのは面白いです。

今回の話はそんな話の一つです。

とある五反田の石像

五反田にとあるポケストップがあるんですが、名称は「西五反田の阿修羅像」となっています。

Googleマップで見ると、青面金剛(しょうめんこんごう)石像とあります。

さて、この像は阿修羅像なのか、青面金剛像なのか、どちらでも良いのか考察したいと思います。

像を見てみる

像をよく見てみると、腕が六本あって日本は正面で印を結んでいて、残りの4本で戟、弓、矢、法輪を持っています。

傍らには元禄十?年 六月十二日と書かれています。 西暦で言うと1700年頃に作られたものだと分かります。

それより注目したいのが足元です。 これは三猿です。 日光東照宮で有名な見ざる、聞かざる、言わざる、ですね。

足元に三猿を置くのは青面金剛の典型的な様式(の一つ)なのでこの像は青面金剛でしょう。

青面金剛 - Wikipedia

隣の塔

さて、隣に目をやると、塔があります。 これは庚申塔ですね。

ja.wikipedia.org

庚申の本尊は青面金剛で、この像は庚申信仰のうちに作られたものと言うことで確度が高まりました。

時期

庚申信仰の流行りは特に江戸時代の関東地方で見られるので、像に刻まれた年月日も時期的にも合致します。

結論1

この像は青面金剛でほぼ間違いない。

残った疑問

さて、像の正体が青面金剛だと分かったところで、 青面金剛を阿修羅と呼んで良いかの疑問が残ります。

以下、そのことについて考察したいと思います。

青面金剛の由来

wikipediaによると、

インド由来の仏教尊像ではなく、中国の道教思想に由来し、日本の民間信仰である庚申信仰の中で独自に発展した尊像である

とありますが、完全に無から発展したのではなく、何かからの派生ないし参考に作られたものであると伺えます。 明らかに見る人が”仏像だ”と認識できるので、影響を受けているのは間違いないでしょう。

青面金剛の姿様式・持ち物

によると

五大明王の一つ「金剛夜叉明王」(3面)を「正面金剛夜叉明王」として(1面)に直したもの。

とあります。 金剛夜叉明王の派生ということですね。 とすると”夜叉”の一族と考えられることは出来るかもしれません。

日本の仏教における夜叉と阿修羅

日本の仏教において夜叉と阿修羅は八部衆に属していて、それぞれ別者です。 なので青面金剛を夜叉だと考えると、阿修羅とは違うと

八部衆は仏教以前から信仰されていた神々が仏教成立に従って仏教に取り込まれて仏法を守護する役目を与えられたもの(の一部)です。

八部衆 - Wikipedia

結論2

以上のことより冒頭で提起した件の像を「阿修羅像と呼べるかどうか」という疑問への回答は「呼べない」になります。

この像は「青面金剛像」です。

なぜ阿修羅像と思ったのか

ポケストップを申請(というかIngress?)した人がなぜこの像を阿修羅像と思ったのかというと、一般的な日本人は六臂の仏像をみたときに阿修羅像と思ってしまうからじゃないかな、というのが推測です。

六臂であっても阿修羅ではないし、仏教ないし南アジア〜東アジアの文化では腕が3本以上ある神々(or 仏)は沢山います。

阿修羅を巡る話

これまでの話で結論は出たのですが余談を。

インドにおけるアシュラはリグ・ヴェーダの時代(3000年以上前)から登場します。 (さらに言うと起源はインド・イラン共通時代まで遡れる)

ちなみに英語版ならリグ・ヴェーダは無料で読めます。

Rig Veda Index

日本語版なら岩波文庫で出ています。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%AA%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%80%E8%AE%83%E6%AD%8C-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%87%E5%BA%AB-%E8%BE%BB-%E7%9B%B4%E5%9B%9B%E9%83%8E/dp/4003206010

リグ・ヴェーダにおいてはヴァルナ(仏教における水天)、シヴァの前身であるルドラ等がアシュラと呼ばれています。

が、時代が下るにつれて、ないしは文献によってアシュラと呼ばれる神々の範囲が変わって難しいです。 仏教でシヴァ由来の大黒天のことを阿修羅と呼ぶのを聞いたことなかったり。

ja.wikipedia.org